有料老人ホームを運営していて、「施設長は他の業務と兼務させてよいのか」「小規模な施設で専任の施設長を置く余裕がない」と悩んでいませんか。施設長(管理者)の扱いを誤ると、指導検査で指摘を受けたり、介護保険の指定取り消しにつながるおそれもあります。
「施設長」と「管理者」は同じ立場を指す
有料老人ホームの現場では「施設長」という呼称が一般的ですが、国の制度上はこの役割を「管理者」と呼びます。厚生労働省の「有料老人ホームの設置運営標準指導指針について」(老発第0718003号、最終改正 令和6年)は、用語の定義の中で「管理者」を「職員の管理、業務の実施状況の把握その他の管理を一元的に行う立場にある者(有料老人ホームの施設長、サービス付き高齢者向け住宅の責任者など、その呼称に関わらない)」と定義しています。つまり施設長・管理者・ホーム長などの呼び方の違いは問題にならず、実質的に施設運営を統括する立場の職員であれば、同じ基準が適用されます。
「介護付き」か「住宅型」かで適用される基準が変わる
ここが有料老人ホームの施設長に特有の悩ましさです。有料老人ホームは老人福祉法第29条第1項(e-Gov法令検索)に基づく施設ですが、介護保険の「指定特定施設入居者生活介護」の指定を受けているかどうかで、施設長(管理者)に関する基準の厳しさが大きく変わります。
| 類型 | 根拠規定 | 管理者の原則 | 兼務の扱い |
|---|---|---|---|
| 介護付き有料老人ホーム(指定特定施設) | 指定居宅サービス等の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)第176条 | 指定特定施設ごとに専らその職務に従事する者を置く(原則専従) | 施設の管理上支障がない場合に限り、同一施設内の他職務・他事業所の職務との兼務が可能 |
| 住宅型有料老人ホーム(特定施設でない) | 有料老人ホームの設置運営標準指導指針 7⑴ | 管理者を配置すること(専従の明文規定なし) | 一律に禁止する規定はないが、兼務時は勤務状況を明確にする勤務表管理が求められる |
介護付き(特定施設)の第176条は、「指定特定施設入居者生活介護事業者は、指定特定施設ごとに専らその職務に従事する管理者を置かなければならない。ただし、指定特定施設の管理上支障がない場合は、当該指定特定施設における他の職務に従事し、又は他の事業所、施設等の職務に従事することができる」と定めています。原則は専従ですが、「管理上支障がない」と判断できれば兼務できる、という例外規定がセットになっている点がポイントです。
一方、住宅型のように自ら特定施設入居者生活介護を提供しない有料老人ホームは、この厚生省令の人員基準そのものが適用されません。標準指導指針7⑴では管理者・生活相談員・栄養士・調理員の配置を求めていますが、管理者を専従にすべきという文言はなく、標準指導指針8⑶で「有料老人ホームの職員が、介護保険サービスその他の業務を兼ねる場合にあっては、各職員について、それぞれが従事する業務の種別に応じた勤務状況を明確にする観点から、適切に勤務表の作成及び管理を行うこと」と、兼務自体を前提にした運用ルールが置かれているに留まります。
計算例でみる兼務の影響
介護付き有料老人ホームで管理者が生活相談員を兼務する場合、管理者としての配置は満たしつつ、生活相談員の人員は別途の常勤換算(パート職員の勤務時間を常勤職員の人数に置き換えて計算する方法)で確認する必要があります。たとえば常勤の週所定労働時間が40時間の施設で、非常勤の生活相談員を週24時間勤務で追加する場合、
常勤換算数 = 常勤職員数 0人 + 非常勤の週勤務時間合計24時間 ÷ 週所定労働時間40時間 = 0.6(小数点第2位以下切り捨て)
となり、常勤換算0.6人分の生活相談員を確保したことになります。管理者の兼務可否と、各職種の必要人数が足りているかは別の論点なので、両方を分けて確認してください。自施設の入居者数・職員構成で必要人数が足りているか不安な方は、人員配置基準チェッカーで一度確認してみることをおすすめします。
現場でよくある悩み・対応のヒント
小規模な有料老人ホームでは、施設長(管理者)が生活相談員や介護職員を兼務せざるを得ない場面が少なくありません。埼玉県が公表している居宅サービス事業所等の管理者の兼務に関する取扱いは、特定施設入居者生活介護の管理者について、同一事業所内であれば管理者と生活相談員の兼務を「管理上支障がない」と考えられる例として示しています。また他事業所との兼務は、原則として管理者としての兼務のみが想定されており、「他事業所」は同一事業者が同一敷地内または隣接地に設置した事業所を指すとされています。これはあくまで埼玉県の解釈例であり、都道府県・指定都市・中核市ごとに指導指針や運用の細部が異なるため、同じ考え方がそのまま自施設に当てはまるとは限りません。
夜勤帯の体制についても誤解が生じやすいところです。標準指導指針7⑴三は「入居者の実態に即し、夜間の介護、緊急時に対応できる数の職員を配置すること」と定めているに過ぎず、具体的な人数までは一律に決めていません。施設長が夜間オンコール対応を兼ねる体制を取る場合は、緊急時に実際に駆けつけられる体制になっているかどうかを、入居者の要介護度や施設の構造も踏まえて個別に検討する必要があります。
テレワークで管理者の職務を行う場合も注意が必要です。管理業務以外の兼務先の業務を書類作成など事務作業に限定するなど、入居者処遇や管理業務に支障が出ない体制であることが前提とされています。
よくある誤解しやすいポイント
「施設長」という肩書きがあれば自動的に専従扱いになる、と考えてしまうのは誤解です。前述のとおり、専従が原則となるのは介護付き(指定特定施設)の場合であり、しかもその原則にも「管理上支障がなければ兼務可」という例外が最初から組み込まれています。逆に、住宅型だから施設長は何でも兼務してよい、という理解も正確ではありません。標準指導指針が求める勤務表による勤務状況の明確化は、住宅型でも必須の運用です。
また、特定施設入居者生活介護の指定基準には資格要件(介護福祉士や一定年数以上の実務経験など)を直接定めた条文はなく、「高齢者の介護について知識、経験を有する者」という抽象的な基準が示されているに留まります。具体的にどの程度の経験が求められるかは、指定権者(都道府県・指定都市・中核市)の審査基準によって差が出ることがあるため、詳しくは事業所所在地の自治体(指定権者)や顧問の社会保険労務士にご確認ください。
まとめの前に、自施設の人員体制が基準を満たしているか不安な場合は、まずは無料の人員配置基準チェッカーで確認してみましょう。
まとめ
- 「施設長」は制度上の呼称としては「管理者」であり、呼び方の違いで基準は変わらない
- 介護付き有料老人ホーム(指定特定施設)の管理者は、平成11年厚生省令第37号第176条により原則専従だが、管理上支障がなければ兼務が認められる
- 住宅型など特定施設に該当しない有料老人ホームには、この専従規定自体が適用されない
- 兼務する場合は、勤務表などで各業務の勤務状況を明確に記録・管理することが共通して求められる
- 兼務の可否や資格要件の具体的な運用は自治体ごとに異なるため、判断に迷う場合は指定権者や社会保険労務士に確認する
2026年時点の基準に基づく内容ですが、介護報酬改定はおおむね3年に一度行われ、次回は2027年度に見込まれています。制度は改正されることがあるため、最新の公式発表も確認してください。
よくある質問
Q. 有料老人ホームの施設長は資格がなくてもなれますか。
標準指導指針や特定施設入居者生活介護の基準省令には、施設長(管理者)に特定の資格を直接要求する条文はありません。ただし基準省令の解釈上、介護サービスの責任者の立場にある者には高齢者介護に関する知識・経験が求められるため、実務上は無資格・未経験のままでは指定権者の審査を通らない場合があります。詳しくは事業所所在地の自治体(指定権者)にご確認ください。
Q. 住宅型有料老人ホームの施設長も専従にしなければいけませんか。
いいえ。専従の原則が定められているのは、介護保険の指定特定施設入居者生活介護の指定を受けている「介護付き」有料老人ホームです(平成11年厚生省令第37号第176条)。特定施設に該当しない住宅型有料老人ホームにはこの規定自体が適用されないため、兼務を一律に禁止する国の規定はありません。
Q. 施設長が別の事業所の管理者を兼務することはできますか。
介護付き有料老人ホームの場合、基準省令上は「指定特定施設の管理上支障がない場合」に限り、他の事業所・施設等の職務に従事することが認められています。どこまでが「支障がない」と判断されるかは自治体の運用によって幅があり、埼玉県のように同一事業者が同一敷地内・隣接地に設置した事業所間の兼務を想定した解釈例を示している自治体もあります。自施設が所在する自治体の解釈を確認してください。
Q. 施設長と生活相談員を兼務させても人員基準上は問題ありませんか。
管理者としての配置要件を満たしていても、生活相談員など他職種の必要人数は別に確認する必要があります。常勤換算(非常勤職員の勤務時間を常勤職員数に置き換える計算方法)で必要数を満たしているかを確認し、不安な場合は人員配置基準チェッカーで具体的な人数を入力して確認することをおすすめします。
Q. 施設長の兼務について自治体に確認する際、何を聞けばよいですか。
「自施設の有料老人ホームが特定施設に該当するか」「施設長の兼務先が管理上支障がないと認められる範囲か」「資格・経験に関する審査基準」の3点を具体的に伝えて確認すると、回答を得やすくなります。制度の解釈は指定権者ごとに運用差があるため、詳しくは事業所所在地の自治体(指定権者)や顧問の社会保険労務士にご確認ください。