「うちのケアマネが辞めたら、どうすればいいのか」
特別養護老人ホーム(以下、特養)を運営していると、介護支援専門員(ケアマネジャー。以下、ケアマネ)の退職や異動による欠員は、いつでも起こりうるリスクです。ケアマネが不在になるとケアプラン(施設サービス計画)の作成・更新が滞り、介護報酬の減算にもつながります。この記事では、特養のケアマネ配置基準の仕組みから、欠員が出た場合の具体的な影響と対応策までを解説します。
特養の介護支援専門員の配置基準
特養のケアマネの配置基準は、「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準」(平成11年厚生省令第39号)第2条に定められています。
基準のポイントは次の3つです。
- 専ら従事する常勤の者を1名以上配置する
- 入所者100人またはその端数を増すごとに1名を標準として配置する
- 入所者の処遇に支障がない場合、施設内の他の職務と兼務できる(ただし居宅介護支援事業所のケアマネとの兼務は不可)
入所者が100人未満の施設でも、最低1名の常勤ケアマネを配置しなければなりません。101人以上の施設では2名以上が「標準」とされ、2人目以降は非常勤でも認められます。
他の主な職種の配置基準と並べると、ケアマネの位置づけが分かりやすくなります。
| 職種 | 配置基準 | 常勤要件 |
|---|---|---|
| 介護・看護職員 | 入所者3人に対して常勤換算1人以上(3:1基準) | 各1名以上は常勤 |
| 生活相談員 | 入所者100人に対して常勤換算1人以上 | 1名以上は常勤 |
| 介護支援専門員 | 入所者100人に対して1人以上 | 1名以上は常勤・専従 |
| 機能訓練指導員 | 1名以上 | 1名以上は常勤 |
| 栄養士 | 1名以上 | ― |
出典:指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第39号)第2条
介護・看護職員は「常勤換算」で算定しますが、ケアマネは**「実人数」で1名以上**が基準です。つまり、パート職員の勤務時間を積み上げて「常勤換算1名」とする方法ではなく、実際に常勤として勤務するケアマネが最低1名必要です。
自施設のケアマネ配置が基準を満たしているか気になる方は、人員配置基準チェッカーで確認できます。施設種別と職員数を入力するだけで、各職種の過不足を判定します。
ケアマネが不足するとどうなるか ― 人員基準欠如減算の仕組み
減算の概要
ケアマネの配置が基準を下回ると、「人員基準欠如減算」の対象になります。減算が発生すると、入所者全員分の介護報酬が所定単位数の70%に減額されます。
具体的な減算の適用ルールは次のとおりです。
| 条件 | 減算開始時期 |
|---|---|
| 基準人数から1割を超えて減少 | 不足が生じた翌月から |
| 基準人数から1割以内の減少 | 不足が生じた翌々月から |
いずれの場合も、人員基準を満たした月の翌月まで減算が継続します。なお、1割以内の減少で翌月末日までに基準を回復できた場合は、減算の対象外となります。
減算のインパクト ― 計算例
特養のケアマネは多くの施設で1名配置です。その1名が退職すると、基準の100%が欠如する(1割を超える減少)ため、翌月から即座に減算が始まります。
入所者80名の特養で所定単位数が1日あたり780単位(要介護4・従来型個室の場合の参考値)の場合、減算の影響を概算すると次のようになります。
- 通常の月額収入:780単位 × 80名 × 30.4日 = 約1,897,280単位
- 減算後の月額収入:1,897,280単位 × 70% = 約1,328,096単位
- 差額:約569,184単位
地域区分が6級地(1単位=10.27円)の場合、月あたり約584万円の減収です。ケアマネ1名の人件費をはるかに上回る損失が、欠員が続く限り毎月発生します。
減算だけでは終わらないリスク
人員基準欠如の状態が長期化すると、指定権者(都道府県または市町村)から改善勧告・改善命令が出されます。それでも改善しない場合は、最終的に指定取り消しにまで至る可能性があります(介護保険法第77条)。減算の経済的ダメージだけでなく、施設の存続そのものに関わる問題です。
欠員が出たときの具体的な対応策
ケアマネが退職・休職して基準を満たせなくなった場合、まず取るべきステップと中長期の対応を整理します。
1. 指定権者への速やかな届出
人員基準を満たせなくなった場合、管轄の自治体(指定権者)に「変更届」を提出する義務があります。届出が遅れると、行政の心証が悪化するだけでなく、監査で問題視される原因にもなります。届出と並行して、欠員解消の計画を策定し、自治体に提出・相談することが重要です。
2. 施設内でケアマネ有資格者を探す
介護福祉士や社会福祉士として5年以上の実務経験がある職員のなかに、すでにケアマネ試験に合格している(資格は持っているが現在はケアマネとして登録していない)職員がいる場合があります。また、過去にケアマネとして勤務していたが更新研修を受けていない職員がいれば、更新研修を受講して登録を復活させることも選択肢です。
ただし、施設内の他職種と兼務する場合、入所者の処遇に支障がないことが条件です。指定基準省令の解釈通知(老企第43号)では、入所者数が少ない場合や業務量に余裕がある場合に限り兼務が認められるとされています。兼務の可否は自治体によって運用が異なるため、事前に指定権者に確認してください。
3. 外部からの採用活動
ケアマネは全国的に不足傾向にあり、特に施設ケアマネの求人倍率は高い状況が続いています。採用を成功させるために検討したいポイントは次のとおりです。
- 待遇面の見直し:施設ケアマネの給与水準が居宅ケアマネより低い場合、その差を埋める処遇改善手当や資格手当の設定
- 柔軟な勤務条件:2人目のケアマネを非常勤で採用することも基準上は認められるため、週3〜4日勤務での募集も検討
- 介護職からのキャリアアップ支援:ケアマネ試験の受験費用・研修費用の法人負担、研修日の出勤扱い
4. 将来の欠員に備える
ケアマネは資格の更新研修(5年ごと)が必要であり、更新を忘れると資格が失効します。施設として次のような予防策を講じておくと、突発的な欠員リスクを軽減できます。
- 施設内で受験要件を満たす職員のリストアップと試験受験の奨励
- ケアマネ資格保持者の更新研修スケジュールの管理
- 入所者数が100人を超える見込みがある場合、早めに2人目のケアマネを確保
よくある疑問・誤解しやすいポイント
「常勤換算でクリアすればいい」は誤り
介護・看護職員の配置基準(3:1基準)は常勤換算で計算しますが、ケアマネの場合は**「専ら従事する常勤の者1名以上」**が基準です。パート2名の合計勤務時間が常勤1名分に相当しても、常勤のケアマネが不在であれば基準を満たしたことにはなりません。
常勤換算の計算自体に不安がある方は、常勤換算計算ツールも併せてご活用ください。
居宅介護支援事業所のケアマネとの兼務はできない
自法人内に居宅介護支援事業所がある場合でも、そこに配置されているケアマネを特養のケアマネとして兼務させることは基準上認められていません(厚生省令第39号第2条、解釈通知・老企第43号)。同一法人の併設事業所であっても同様です。
ケアプラン作成ができなくなるとどうなるか
ケアマネが不在の間、新規入所者のケアプランが作成できず、既存入所者のプランの見直しも滞ります。ケアプランに基づかないサービス提供は、運営基準違反として監査で指摘される可能性があります。人員基準欠如減算とは別の問題として、ケアプラン不在によるリスクも認識しておく必要があります。
入所者80人の施設に必要なケアマネの人数
入所者80人の場合、基準上は「100人に対して1名」なので、常勤ケアマネ1名が最低基準です。ただし、ケアプランの作成・見直し・担当者会議の運営を1名で80件分こなすのは実務上かなりの負担です。業務量に応じて2名体制を検討することが望ましいといえます。
まずは人員配置基準チェッカーで、自施設の全職種の配置状況を確認してみてください。ケアマネだけでなく、介護・看護職員や生活相談員の過不足もまとめて把握できます。
まとめ
- 特養のケアマネの配置基準は「専ら従事する常勤1名以上」「入所者100人に対して1名を標準」(厚生省令第39号第2条)
- ケアマネが不足すると、入所者全員分の介護報酬が所定単位数の70%に減算される
- 1割超の減少では翌月から、1割以内の減少では翌々月から減算が適用される
- 欠員が出たら、指定権者への届出・施設内有資格者の活用・外部採用を並行して進める
- 居宅介護支援事業所のケアマネとの兼務は認められない
- 将来の欠員に備えて、施設内でのケアマネ資格取得支援と更新管理を行う
詳しくは事業所所在地の自治体(指定権者)や顧問の社会保険労務士にご確認ください。制度の数値や基準は2026年時点のものであり、次回の介護報酬改定(2027年度見込み)で変更される可能性があります。最新情報は厚生労働省の介護報酬改定ページで確認してください。
よくある質問
Q. 特養のケアマネが退職した場合、すぐに減算になりますか?
基準人数から1割を超えて減少した場合は翌月から、1割以内の減少であれば翌々月から人員基準欠如減算(所定単位数の70%)が適用されます。特養のケアマネは多くの施設で1名配置のため、その1名が退職すると100%の欠如となり、翌月から減算が開始されます。ただし、翌月末日までに基準を回復できれば減算は適用されません。
Q. ケアマネが見つからない間、介護職員に兼務させることはできますか?
基準省令上、入所者の処遇に支障がなければ施設内の他職務との兼務は認められています(老企第43号)。ただし、兼務するにはその職員がケアマネの資格(介護支援専門員証)を保持していることが前提です。介護福祉士の資格だけではケアマネ業務は行えません。兼務の可否や条件は自治体により運用が異なるため、指定権者に事前に確認してください。
Q. 居宅介護支援事業所のケアマネを特養のケアマネとして兼務させられますか?
認められていません。厚生省令第39号第2条および解釈通知(老企第43号)により、特養のケアマネは居宅介護支援事業所の介護支援専門員との兼務ができないと明記されています。同一法人内の併設事業所であっても同様です。
Q. 入所者120人の特養ではケアマネは何人必要ですか?
基準上は「入所者100人またはその端数を増すごとに1名を標準」なので、120人の場合は2名が標準です。このうち1名は常勤・専従が必須で、2人目以降は非常勤でも認められます。ただし「標準」は最低基準よりやや緩い表現のため、具体的な運用は指定権者に確認してください。