老健でリハビリ専門職の確保に悩んでいませんか
介護老人保健施設(老健)を運営していて、「理学療法士(PT)や作業療法士(OT)の応募が来ない」「言語聴覚士(ST)を採用したいが見つからない」と感じていませんか。老健は在宅復帰を支援するリハビリ施設であり、PT・OT・STの確保は施設の存在意義に直結します。この記事では、老健特有のリハビリ職の配置基準を整理したうえで、現場で実践できる採用・定着の具体策を解説します。
老健におけるリハビリ職の配置基準 ― 他施設にはない要件
老健のリハビリ専門職の配置基準は「介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準」(平成11年厚生省令第40号)第2条で定められています。
老健が他の介護施設と異なる最大の特徴は、リハビリ専門職の配置が法令上の義務である点です。特養(特別養護老人ホーム)には「機能訓練指導員1名以上」の基準しかなく、PT・OT・STの配置義務はありません。グループホームや有料老人ホームにも同様の義務はありません。老健だけが、リハビリ3職種に対して入所者数に応じた配置基準を持っています。
この違いは、老健が介護保険法上「在宅復帰のための中間施設」として位置づけられていることに由来します。リハビリ職の確保は、老健にとって法的要件を満たすための必須課題であり、経営判断の問題だけでは済まないのです。老健の人員配置基準の全体像は老健の人員配置基準とは?職種別の必要人数と計算例で詳しく解説しています。
押さえておきたい配置基準と常勤換算のルール
配置基準の基本
2026年時点の基準では、老健のリハビリ職の配置は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象職種 | 理学療法士(PT)・作業療法士(OT)・言語聴覚士(ST) |
| 配置基準 | 入所者100人に対して常勤換算1人以上 |
| 算定方法 | 3職種の合計で判定(職種ごとの比率指定なし) |
| 常勤要件 | なし(非常勤の積み上げでも可) |
出典:介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準(平成11年厚生省令第40号)第2条
PT・OT・STの合計で100:1を満たせばよいため、「PTを何人、OTを何人」という職種別の配置比率は基準省令には定められていません。
計算例:入所者80人の場合
入所者80人の老健で、週所定労働時間が40時間の場合を考えます。
必要なリハビリ職の常勤換算数:80 ÷ 100 = 0.8人以上
常勤PTが1名いれば常勤換算1.0となり基準を満たします。常勤がいない場合でも、非常勤OTが週32時間勤務なら 32 ÷ 40 = 0.8人となり基準はクリアです。
常勤換算数(FTE)の計算式は「常勤職員数 + 非常勤職員の週勤務時間合計 ÷ 常勤の週所定労働時間(小数点第2位以下切り捨て)」です。たとえば常勤PTが1名、非常勤OTが週20時間勤務なら、常勤換算数 = 1 + (20 ÷ 40) = 1.5人となります。
自施設のリハビリ職の配置が基準を満たしているか確認したい方は、人員配置基準チェッカーで職種ごとの過不足を判定できます。
併設通所リハとの兼務 ― 按分ルールに注意
老健に併設する通所リハビリテーション(デイケア)がある場合、リハビリ職の兼務が認められています。厚生労働省の通知(老企第44号)では、老健の入所サービスと同時並行的に行われる併設通所リハの職務であれば、その勤務時間を老健の常勤換算に含めて差し支えないとされています。
一方、訪問リハビリテーションに従事した時間は老健の常勤換算には含められません。訪問リハは入所者へのサービス提供時間帯以外に行う必要があり、その時間は老健の人員基準の算定対象外です。
| 兼務先 | 老健の常勤換算に含めるか |
|---|---|
| 併設通所リハ(デイケア) | ○ 含められる(同時並行的な業務の場合) |
| 訪問リハビリテーション | × 含められない |
このルールを正しく理解しておくことは、限られたリハ職を効率的に配置するうえで欠かせません。解釈に迷う場合は、事業所所在地の自治体(指定権者)や顧問の社会保険労務士にご確認ください。
現場でよくある悩みと対応のヒント
悩み1:そもそも応募が来ない
老健のリハビリ職は病院・クリニックとの採用競合が激しく、とくに急性期や回復期リハビリテーション病棟を志望する新卒のPT・OTにとって、老健は「第一志望」になりにくい傾向があります。厚生労働省の資料でも、介護分野は他産業に比べて有効求人倍率が高く、人材確保が困難な状況が続いていると指摘されています(介護人材確保に向けた取組について)。
対応のヒント:
- 養成校への実習受け入れ:地域のPT・OT・ST養成校に実習施設として登録し、学生に老健でのリハビリの実際を体験してもらう。「老健=地味」という先入観を覆す最も効果的な方法です
- 生活期リハの魅力を求人票で訴求する:急性期・回復期とは異なり、入所者の生活全体を見ながら長期的にリハビリを組み立てられることは老健ならではの強みです。「退院後の生活をつくるリハ」「多職種チームでの在宅復帰支援」といったやりがいを具体的に伝えることが応募につながります
- 非常勤・パートの柔軟な勤務体制:常勤の採用が難しい場合、非常勤を複数名確保して100:1基準を満たす方法もあります。育児中のPTなど「フルタイムは難しいが週2〜3日なら」という層は一定数います
悩み2:STだけが見つからない
PT・OTに比べてSTの有資格者数はもともと少なく、採用難易度が特に高い職種です。
対応のヒント:
- 100:1基準はPT・OT・STの合計で判定するため、まずはPTまたはOTで基準を充足させたうえでSTの採用活動を並行して進める
- 近隣の医療機関や訪問リハ事業所と連携し、非常勤STの確保を検討する
- 摂食嚥下障害や認知症の入所者が多い施設では、ST配置により認知症短期集中リハビリテーション実施加算(Ⅰ:240単位/日、令和6年度改定時点)の算定が可能になる場合があります。加算収入がST人件費を支える根拠になります
悩み3:採用しても定着しない
老健のリハビリ職が「配置基準上いればよい」という扱いを受けると、専門性を活かせない不満から離職につながりやすくなります。
対応のヒント:
- 個別リハの質と量を確保する体制づくり:超強化型・在宅強化型の算定を目指す施設では、週3回以上・1回20分以上の個別リハが求められます。リハ職が「流れ作業」にならないよう、担当入所者数を適切に設定する
- 多職種カンファレンスへの参加:ケアマネ・看護師・介護職員との定期的なカンファレンスにリハ職を参加させ、リハビリ計画が施設全体のケアプランに反映される体制を整える
- リハマネジメント業務への関与:リハマネ計画書情報加算(Ⅰ:53単位/月、令和6年度改定時点)の算定に関わる業務をリハ職に担わせることで、単なる実技提供者ではなくリハビリテーションマネジメントの担い手として位置づけることができます
よくある疑問・誤解しやすいポイント
「リハ職を増やしても収益に見合わない」は本当か
リハビリ職の増員は人件費の増加要因ですが、加算の算定を通じて増収につなげることが可能です。令和6年度改定時点の老健の主なリハ関連加算は次のとおりです。
| 加算名 | 単位数 | 算定頻度 |
|---|---|---|
| 短期集中リハ実施加算(Ⅰ) | 258単位/日 | 入所後3か月以内 |
| 短期集中リハ実施加算(Ⅱ) | 200単位/日 | 入所後3か月以内 |
| 認知症短期集中リハ実施加算(Ⅰ) | 240単位/日 | 入所後3か月以内 |
| 認知症短期集中リハ実施加算(Ⅱ) | 120単位/日 | 入所後3か月以内 |
| リハマネ計画書情報加算(Ⅰ) | 53単位/月 | 毎月 |
たとえば入所者80人の施設で短期集中リハ加算(Ⅰ)を月に10人に算定した場合、258単位 × 10人 × 30.4日 = 78,432単位の増収です。地域区分が「その他」(1単位=10.00円)であれば月あたり約78万円の増収になり、リハ職1名の増員を検討する際の判断材料になります。
人員基準を割ると月数百万円の減収
逆にリハ職の配置が100:1を下回ると、人員基準欠如減算が適用されます。入所者全員分の介護報酬が所定単位数の70%に減額されるため、インパクトは甚大です。
入所者80人・施設介護サービス費が1日あたり850単位(要介護3・多床室の参考値)の場合:
- 通常の月額:850 × 80 × 30.4 = 2,067,200単位
- 減算後:2,067,200 × 70% = 1,447,040単位
- 差額:620,160単位(月あたり約620万円の減収)
リハ職1名の人件費をはるかに超える損失が毎月発生します。「採用にコストをかけるか」は、欠員リスクの経済的影響と天秤にかける問題です。
まずは人員配置基準チェッカーで自施設のリハ職の充足状況を確認してみましょう。
まとめ
老健でPT・OT・STを確保するために押さえておきたいポイントを整理します。
- 老健のリハビリ職配置基準は入所者100人に対して常勤換算1人以上(厚生省令第40号第2条)。3職種合計で判定する
- 非常勤の積み上げでも基準は満たせるが、個別リハの質を考えると常勤の確保が望ましい
- 併設通所リハとの兼務は常勤換算に含められるが、訪問リハの勤務時間は含められない
- 養成校への実習受け入れ、生活期リハの魅力訴求、非常勤の柔軟活用が具体的な採用策
- リハ関連加算(短期集中リハ加算・リハマネ計画書情報加算など)の算定で増員コストを収益で補える
- 人員基準欠如減算は所定単位数の70% ― 欠員放置のコストは月数百万円規模
- 次回の介護報酬改定は2027年度に見込まれている。基準や加算の見直しがある可能性があるため、最新情報は厚生労働省の介護報酬改定ページで確認を
よくある質問
Q. 老健のPT・OT・STはそれぞれ何人ずつ配置する必要がありますか?
職種ごとの配置比率は基準省令に定められていません。PT・OT・STの3職種を合算して、入所者100人に対して常勤換算1人以上を満たせばよいとされています(厚生省令第40号第2条)。ただし入所者の疾患構成によって必要な職種バランスは異なるため、施設の状況に合わせた配置を検討してください。
Q. 非常勤のリハ職だけで配置基準を満たすことはできますか?
制度上は可能です。基準省令では「常勤換算方法」で算定すると定められており、非常勤の勤務時間を積み上げて100:1を満たすことは認められています。ただし、個別リハ計画の継続的な管理やカンファレンス参加の観点から、少なくとも1名は常勤リハ職を確保することが実務上望ましいといえます。
Q. リハ職が基準を下回ると具体的にどうなりますか?
人員基準欠如減算の対象となり、入所者全員分の介護報酬が所定単位数の70%に減額されます。基準人数から1割を超えて不足した場合は翌月から、1割以内の不足でも翌月末日までに回復できなければ翌々月から減算が適用されます。入所者80人の施設では月あたり約620万円の減収に相当する規模です。
Q. 通所リハ(デイケア)との兼務でリハ職を効率的に活用できますか?
併設通所リハの職務が老健の入所サービスと同時並行的に行われ、入所者の処遇に支障がない場合は、その勤務時間を老健の常勤換算に含めることができます(厚生労働省通知 老企第44号)。ただし訪問リハビリテーションの勤務時間は老健の常勤換算に含められないため、兼務先のサービス種別に注意が必要です。