「急に職員が辞めてしまった」「シフトが埋まらず、今月は人員配置基準ぎりぎりかもしれない」——そんなとき真っ先に迷うのが、「どこかに届け出る必要があるのか」「このままだと報酬が減らされるのか」という点です。本記事では、欠員が発生した日を起点に、確認すべきことと届出が必要になる条件を順番に整理します。
欠員が出たら最初にすること:基準割れかどうかを常勤換算で確認する
欠員の一報を受けてまず確認すべきは、「人員配置基準を本当に下回っているか」です。多くの施設では非常勤職員(パート・アルバイト等)の比率が高く、単純な頭数ではなく常勤換算数(パート職員の勤務時間を常勤職員の人数に置き換えて計算する方法)で判定するため、感覚的な人手不足と基準割れが一致しないことが珍しくありません。
常勤換算数は「常勤職員数+非常勤職員の週勤務時間の合計÷常勤職員の週所定労働時間」で計算し、小数点第2位以下は切り捨てます。退職者が出た直後は、まずこの計算をやり直し、現在の常勤換算数が施設種別ごとの基準を満たしているかどうかを確認してください。
→ 自施設の職種別の人数を入力して、今まさに基準を満たしているかを確認したい方は、人員配置基準チェッカーをお使いください。
施設種別によって「何を下回ると基準割れか」が変わる
人員配置基準は施設種別・サービス類型ごとに異なる基準省令で定められているため、欠員が出た職種・施設によって判定方法が変わります。
特養(介護老人福祉施設)の場合
指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第39号)第2条により、介護職員・看護職員の合計は常勤換算で入所者3人につき1人以上が必要です。
【計算例】入所者72人の特養で、介護職員が1人退職した場合
必要な常勤換算数は、72 ÷ 3 = 24人以上です。退職前の常勤換算数が24.3人、退職した職員の常勤換算値が1.0人だったとすると、24.3-1.0=23.3人となり、基準(24人)を0.7人分下回ります。不足幅は必要数の1割(2.4人)以内に収まっているため、後述する減算の猶予特例の対象になり得るケースです。
通所介護(デイサービス)の場合
指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)第93条により、介護職員は利用者15人まで1人以上、15人を超える分は5人ごとに1人を常勤換算で加算配置します。看護職員は介護職員と合算せず、別枠で1人以上必要です。
利用者定員25人のデイサービスなら、(25-15)÷5=2で、必要な介護職員数は1+2=3人以上(常勤換算)です。看護職員が急に休職し、別枠の1人を満たせなくなった場合は、介護職員の人数が足りていても基準割れになる点に注意してください。
「変更届出」が必要なケース・不要なケース
欠員が出るたびに毎回届け出る必要があるのか、という疑問を持つ管理者は多いはずです。結論としては、運営規程・重要事項説明書の書き方次第で扱いが変わります。
介護保険法では、指定居宅サービス事業者(デイサービス等)は第75条第1項、指定介護老人福祉施設(特養)の開設者は第89条により、名称・所在地その他厚生労働省令で定める事項に変更があったときは、変更があった日から10日以内に都道府県知事へ届け出なければならないと定められています(厚生労働省・介護保険法、同・第89条部分)。
一方で厚生労働省の通知では、運営規程や重要事項説明書に記載する従業者の「員数」は日々変わり得るものであるため、指定基準上置くべきとされる員数を満たす範囲内であれば、「○人以上」と記載することも差し支えないとされています。実人数を記載している場合に限り、1年のうち一定の時期を比較して変更があったときに届出を行えば足りる扱いも認められています(厚生労働省・介護保険最新情報 Vol.955)。
ただし、この取扱いはあくまで日々の人数変動を想定したものであり、基準そのものを満たせなくなった場合にまで届出が不要になるわけではありません。また、やむを得ない事情で届出が遅延した場合でも、指定権者は遅延理由書の提出までは求めないなど、事業者に過度な負担をかけない運用が示されています(同通知)。
基準割れが続くとどうなるか:減算と、2026年6月に新設された猶予特例
常勤換算数が基準を下回る状態が解消されない場合、「人員基準欠如減算」として介護報酬が原則3割減算されます。不足の程度によって適用のタイミングが分かれ、介護・看護職員が基準上必要な員数から1割を超えて減少した場合はその翌月から、1割の範囲内の減少であれば翌々月から(翌月末までに解消すれば適用されません)減算されるのが基本の仕組みです(社会保障審議会介護給付費分科会資料)。
これに対し、2026年6月の算定分から、突発的で想定が困難な事象によるやむを得ない事情で欠員が生じ、不足が基準の1割の範囲内にとどまる場合に限り、ハローワーク等を活用した職員確保の取組や適正な労働時間管理を行っていることを条件に、1年に1回・人員欠如が生じた月の翌々月までの減算を猶予する特例的な取扱いが実施されています。適用を受けるには、人員欠如が生じた月の翌月までに、所定の届出書に取組状況や有効な求人票の写しを添えて都道府県知事へ報告する必要があります(厚生労働省・介護保険最新情報 Vol.1502)。法人の定例異動やあらかじめ分かっていた定年退職は、この「突発的で想定が困難な事情」には当たらないとされている点にも留意してください。
欠員が出た日からの対応の流れ
欠員の発生に気づいたら、次の順序で動くと抜け漏れを防ぎやすくなります。
- 常勤換算数を再計算し、施設種別の基準を満たしているかを確認する
- 基準を満たせていない場合、不足幅が基準の1割を超えるか・1割以内かを把握する
- ハローワークや無料職業紹介事業の活用など、職員確保の取組を始め、記録を残す
- 運営規程の員数表記(実人数か「○人以上」か)を確認し、変更届出が必要かどうかを判断する
- 届出が必要な場合は10日以内に、猶予特例を使う場合は翌月までに、指定権者(都道府県・市区町村等)へ提出する
この手順や各届出の様式は自治体によって運用が異なる部分もあるため、詳しくは事業所所在地の自治体(指定権者)や顧問の社会保険労務士にご確認ください。
誤解しやすいポイント
「人数が1人減った=即座に重い処分」ではありません。基準割れは段階的に扱われ、不足幅が1割以内で要件を満たせば猶予特例の対象にもなります。運営規程が「○人以上」表記であれば日々の増減のたびの届出は不要ですが、基準そのものを割り込んだ場合まで届出が免除されるわけではない点は混同しやすいところです。また、猶予特例は欠員が出れば自動的に適用されるものではなく、職員確保の取組と期限内の届出が前提条件になります。
まずは無料の人員配置基準チェッカーで確認してみましょう。現状の常勤換算数が基準を満たしているかを数値で把握すれば、届出や猶予特例が必要な状況かどうかの判断もしやすくなります。
まとめ
- 欠員が出たら、まず常勤換算数を再計算し、基準割れの有無と不足幅(1割超か1割以内か)を確認する
- 変更届出は原則10日以内(介護保険法第75条・第89条)。運営規程が「○人以上」表記なら日々の増減のたびの届出は不要
- 基準割れが続くと原則3割の人員基準欠如減算となるが、2026年6月からは要件を満たせば最大翌々月まで猶予される特例がある
- 猶予特例を使うには、欠員発生月の翌月までにハローワーク活用等の取組を添えて都道府県へ報告する
- 制度の細部は自治体や顧問の社会保険労務士に確認しつつ、人員配置基準チェッカーでまず現状を数値で把握することから始める
よくある質問
Q. 非常勤職員が1人、体調不良で休んだだけでも届出が必要ですか?
いいえ。運営規程や重要事項説明書の員数を「○人以上」と記載している場合、日々の出欠による一時的な増減のたびに届出をする必要はありません(介護保険最新情報 Vol.955)。ただし、その状態で常勤換算数が基準を下回っているなら、基準割れとしての対応は別途必要です。
Q. 変更届出はどこに、どうやって提出しますか?
指定を受けた都道府県知事、または権限移譲を受けた市区町村(指定都市・中核市を含む)が提出先です。様式や提出方法(窓口・郵送等)は指定権者ごとに異なるため、詳しくは事業所所在地の自治体(指定権者)にご確認ください。
Q. 猶予特例を使えば減算は一切発生しませんか?
いいえ。猶予はあくまで「最大翌々月まで」の期間限定の措置で、1年に1回しか使えません。また、介護・看護職員の不足が基準の1割を超える場合は対象外で、通常どおり翌月から減算されます(介護保険最新情報 Vol.1502)。
Q. ケアマネジャーの欠員も同じ扱いですか?
居宅介護支援事業所の介護支援専門員(ケアマネジャー)が欠員となった場合も人員基準欠如減算の対象ですが、減算が適用されるタイミングの考え方は介護職員・看護職員の場合と異なる部分があるため、該当する基準省令・通知を個別に確認する必要があります。
Q. 2026年6月に始まった特例は今後も続きますか?
2026年時点で実施されている取扱いですが、介護報酬改定はおおむね3年に一度行われ、次回は2027年度に見込まれています。要件や期間が見直される可能性があるため、適用前に厚生労働省や指定権者の最新情報を確認してください。