「採用してもすぐ辞めてしまう」――そのイタチごっこ、どこから抜け出すか
「求人を出しても応募が来ない」「やっと採用できても数か月で辞めてしまう」「このままでは人員配置基準を維持できない」――こうした声は、施設規模を問わず多くの介護施設経営者・管理者から聞かれます。採用と定着は別の課題のように見えて、実は同じ根っこを持っています。この記事では、何から手をつければよいかを整理し、比較検討する際の視点を紹介します。
なぜ今このテーマが重要なのか
介護分野の人手不足は、統計を見ても明らかです。厚生労働省の一般職業紹介状況(職業安定業務統計)によると、2025年時点で介護関係職種の有効求人倍率は全国平均の3倍前後で推移しており、他業種に比べて求人を出しても人が集まりにくい状態が続いています(厚生労働省「一般職業紹介状況」)。一方で、公益財団法人介護労働安定センターが厚生労働省の委託を受けて実施した令和6年度介護労働実態調査では、介護職員の離職率は12.8%と報告されています(介護労働安定センター「介護労働実態調査」)。全産業平均よりは低い水準ですが、採用が難しい状況下での離職は、埋め合わせにかかる時間とコストが特に重くのしかかります。
採用と定着を別々の課題として扱うと、「辞めた分をまた採用する」自転車操業から抜け出せません。求人広告費・紹介手数料・教育にかかる時間はどれも小さくない負担であり、離職が続けば常勤換算数(パート職員の勤務時間を常勤職員の人数に置き換えて計算する方法)が基準を割り込み、報酬の減算リスクにもつながりかねません。だからこそ、採用チャネルの見直しと、辞めない仕組みづくりを並行して考える必要があります。
検討する際に押さえておきたいポイント
費用感
採用チャネルには、ハローワーク(原則無料)、有料求人媒体(掲載課金型で数万円〜数十万円)、人材紹介会社(成功報酬型で理論年収の20〜30%程度が相場とされることが多い)など複数の選択肢があります。定着支援の側では、研修プログラムやeラーニング、資格取得支援制度などがあり、月額制・年間契約制のサービスも増えています。初期費用だけでなく、継続的にかかる費用まで含めて比較することが大切です。
導入のしやすさ
紹介会社への登録や求人媒体の掲載申し込みはすぐに始められますが、成果が出るまでの期間はサービスによって差があります。研修・教育系のサービスは、既存の勤務シフトに組み込みやすいか(オンライン受講が可能か、集合研修が必要かなど)が現場負担を左右します。無料相談やトライアル期間を設けているサービスも多いため、実際に資料を取り寄せて自施設の状況に合うか確かめるとよいでしょう。
現場への定着しやすさ
採用がうまくいっても、受け入れ体制が整っていなければ早期離職につながります。新人教育の担当者が固定されているか、キャリアパス(資格取得や役職への道筋)が職員に見えているかは、定着率に直結する要素です。特に非常勤・パート職員が多い施設では、勤務時間の柔軟性と教育機会の両立が課題になりやすい点も押さえておきたいところです。
こんな施設には特に向いている
- 採用してもすぐ辞めてしまう施設:受け入れ体制やOJTの仕組みが整っていない場合、研修支援サービスの導入で早期離職を防げる可能性があります。
- 非常勤職員の比率が高く、常勤換算数がぎりぎりの施設:定着支援によって少人数でも長く働き続けてもらえれば、常勤換算数の安定につながります。
- 採用コストがかさんで経営を圧迫している施設:紹介手数料に頼った採用を続けるより、既存職員の定着に投資したほうが中長期的なコストを抑えられるケースがあります。
具体的な数字で見てみます。入所者60人の特養では、3:1基準(介護・看護職員の常勤換算数が入所者数の3分の1以上必要という基準)により、60 ÷ 3 = 20人の常勤換算数が必要です。現在、常勤職員15人と非常勤職員(週の勤務時間合計120時間、常勤の週所定労働時間40時間)がいる場合、非常勤分の常勤換算数は120 ÷ 40 = 3人。合計すると常勤換算数は15 + 3 = 18人となり、基準の20人には2人分足りません。ここで常勤職員が年間2人退職すると、埋め合わせの採用・教育が完了するまでの間、基準割れの状態が続くことになります。採用を急ぐだけでなく、そもそも離職を減らして18人を維持しやすくすることが、遠回りに見えて確実な近道になる場合があります。
| 施策 | 主な狙い | 効果が出るまでの目安 |
|---|---|---|
| 求人媒体・ハローワーク | 母集団の確保 | 数週間〜数か月 |
| 人材紹介サービス | ピンポイントの採用 | 数週間〜 |
| 研修・資格取得支援 | 早期離職の防止、定着率向上 | 数か月〜1年程度 |
| キャリアパスの整備 | 中長期の定着、モチベーション維持 | 1年以上 |
導入・利用にあたっての注意点
採用サービスも定着支援サービスも、導入すればすぐに効果が出るとは限りません。人材紹介は即効性がある一方、成功報酬の水準によっては採用コストがかさみます。研修・キャリアパス整備は効果が出るまで時間がかかるため、短期的な人手不足の解消策としては不向きです。自施設が抱えている課題が「今すぐ人手が足りない」ことなのか、「採用してもすぐ辞めてしまう」ことなのかを切り分けたうえで、適したサービスを選ぶ必要があります。
また、非常勤職員の労働時間や雇用形態の扱い、資格要件(介護福祉士・実務者研修修了者など職種ごとに配置基準上の扱いが異なる場合があります)は、施設種別や地域によって解釈が分かれることもあります。詳しくは事業所所在地の自治体(指定権者)や顧問の社会保険労務士にご確認ください。
まとめ・次の一歩
- 介護人材の確保は、採用チャネルの見直しと、育成・キャリアパスなど定着の仕組みづくりを両輪で進めることが起点になります
- 有効求人倍率が高く離職率も無視できない水準にあるなか、採用だけに頼ると自転車操業になりやすい構造があります
- 費用感・導入のしやすさ・現場への定着しやすさの3点を軸に、複数サービスを比較検討するのが失敗しにくい進め方です
- 自施設の課題が「今すぐの人手不足」なのか「定着できない」なのかを整理したうえで、まずは資料請求や無料相談で情報収集から始めてみてはいかがでしょうか
よくある質問
Q. 介護人材の採用と定着、どちらを優先すべきですか?
現在の常勤換算数が基準ぎりぎり、または割れている場合は採用を急ぐ必要がありますが、採用してもすぐ辞めてしまう状態が続いているなら、受け入れ体制や教育の仕組みを見直すほうが根本的な解決に近づきます。両方を並行して進めるのが基本ですが、自施設がどちらの課題を抱えているかをまず切り分けることが出発点です。
Q. 人材紹介サービスの手数料相場はどれくらいですか?
理論年収の20〜30%程度を成功報酬とする紹介会社が多いとされますが、料率はサービスによって異なります。複数社から見積もりを取り、成功報酬の条件(返金保証の有無など)まで確認して比較することをおすすめします。
Q. 定着支援に取り組んでも人員配置基準を割ってしまった場合はどうすればよいですか?
基準を満たせない状態が続くと報酬の減算対象になる場合があります。まずは応援職員の一時的な確保や勤務シフトの調整で急場をしのぎつつ、中長期的には定着支援と採用の両面から常勤換算数を回復させる計画を立てる必要があります。個別の対応については、詳しくは事業所所在地の自治体(指定権者)や顧問の社会保険労務士にご確認ください。
Q. パート・非常勤職員の定着対策として何が有効ですか?
勤務時間の柔軟性を保ちながら、短時間でも受けられる研修やオンライン学習の機会を用意することが有効とされています。非常勤職員は常勤換算数の計算にも直結するため、少人数でも長く勤めてもらえる環境づくりが、採用を繰り返すよりも効率的な場合があります。